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2011年2月17日 (木)

美しい運指

久しぶりでの音楽のそれもピアノの記事になりました。弾き易い運指、良い運指、弾き難い運指、悪い運指はあっても美しいとは?

記事に入る前に、運指ですが、ピアノの場合、親指1、人差し指2、中指3、薬指4、小指5というふうに指番号が割り当てられています。これは右指も左指も同じです。ピアノの楽譜の音符の上下左右に小さな数字が印刷されています。これらの指番号を総称して運指といいます。

この運指というのは作曲者のオリジナル、あるいは楽譜の校訂者、あるいは楽譜出版者の編集部が付けることもあります。子供の時のピアノレッスンで、この運指を勝手に変えて先生に注意された、あるいは怒られたという記憶がある人は多いと思います。

ところが、印刷されている運指は使用に耐えうるものであればいいのですが、グレン・グールドはデービット・デュバルのインタービュー(実際のインタビューは実現しなくて、デュバルの質問を構成して自作自演の脚本のしたもの)では、「ビショップのバッハとかシュナーベルのベートーヴェンー運指法が、その他のお道楽にまじって入っているのが非情に不可解に思えたのです。」(音楽の友社翻訳版「ピアニストとのひととき(上)」175、176ページ)

この話はグールドだけの話として通り過ぎてはいけません。要するに個人個人の手の大きさを始めとして、個人の特性は千差万別です。グールドには合わない運指だと言っているわけです。以前にも書きましたがグールドは前掲書の中で、「私にとって運指とは、楽譜を見たときに、なにか自然発生的に浮かんでくるもので。強調しなければならない場所が変わって、楽譜の見方が違ってきたようなときに、かりにも変えられるものであれば変えるといったようなものです」と述べています。

こういった楽譜の運指に対する、反逆的ともいえる意見を最初に提示しておいたほうが、本題の記事の内容がより鮮やかに浮かび上がってくるのではと思っています。まず二つの楽譜を御覧ください

Goldbergvar26etudeop2511

何の楽譜かお分かりですか?左がバッハのゴールドベルグ変奏曲の第26番変奏曲、右はショパンのエチュード作品25-11イ短調(通称 木枯らしのエチュード)です。なんとなく似てませんか?三拍子と四拍子の違いはありますが、右手が細かい6連符、左手に付点のリズムが入ります。第26変奏の運指については以前にブログの記事にしましたので、繰り返しませんが、相当な速度で演奏するためには極めて合理的、自然的な運指が必要です。

娘chiakiの第26変奏のレッスンをする中で、10日ほど前のことですが、何かに音型が似ているなと考えていたら、ショパンのエチュードが思い浮かんだのです。私は、第26変奏をよりよくマスターするためにショパンのエチュードを利用することを思いつきました。より難しいショパンのエチュードを練習することによって、多少なりとも第26変奏が、やさしいものと、感じられるようにしてあげたかったのです。

右側のショパンの楽譜を御覧ください。静かな和音の序奏のあと、音符を拾うのも億劫になりそうな細かい音型が並んでいます。ところがこの右手の音符ですが、2声部と考え、別々に記譜しますと下記のようになります。(譜面の6という数字は運指ではなく6連符の意味です)

Etudeop251103

簡単でしょう。上の二段が5小節目の下降部分です。ファからオクターブ下のファ#にかけての下降半音階と、ラド、ミラ、ドミ、ラドのラドミ(Am)(アーモール、エーマイナー)の和音です。6小節目もオクターブ低いだけでまったく同じです。ここでショパンは5小節の2拍目までは(52412)(1421)の運指を残しています。指と指を広げなければいけませんが、5本指がまんべんなく出てくる素晴らしい運指だと思います。パデレフスキー版では(52412)(1421)となっていて青数字の部分がショパンとパデルフスキー版との違いです。5(小指)を多用しているのが特徴ですが5の相棒(次の音の運指)として1または2が選ばれていますので、5の連続使用は苦にならないはずです。運指の特徴として2拍めのララミ(上記手書き楽譜2段目の2拍目)を121と同じラを1回目は1を2回目は2を使って、次の音ミを1で弾く準備をしているわけです。

Etudeop251101c

重要なことは、基本の和声部分を1,2に任せていることです。

イ短調の和音に半音階を乗せる音型は同じくショパンのエチュード作品10-2イ短調を思い出します。作品10-2の方はアルペジオがほとんで出てきませんが、「木枯らし」の方はふんだんに出てきます。下降は半音階にまかせ、上行はアルペジオに委ねているのがこの「木枯らし」の特徴のひとつです。

さて上記手書きの3段目をご覧下さい。これは9小節目のアルペジオの部分の最初の部分ですが、(524152)と4と1の間でポジションチェンジがあります。アルペジオの52から始まる運指は、大変不安定に感じます。なんとも悩ましい運指ではありますが、左のファシミと続くアルペジオを御覧ください。ファシミレは(1254)と運指できますが、ショパンのアルペジオはこのアルペジオの並び替えであることがわかります。右のファシミレの和音でも十分美しいですが、ミシレファのあともう一度オクターブでミレと続く音配列は、ショパンの曲がなぜ美しいのか、その答えのひとつかもしれません。それは左のショパンと右の通常配置のアルペジオを弾き比べればわかります。

日本では「木枯らしのエチュード」と通称されておりますが、もう一つの「革命エチュード」とも呼ばれています。怒涛のようなアルペジオで演奏するのが本来の曲趣でありますが、娘には、夢見るようにやわらかく遅く(速く、激しくはまだ弾けません)練習しています。実際娘の感想を聞いてみますと、こんなに美しい半音階とアルペジオなら練習するのが全然苦にならないそうです。最高のエチュードといわれる所以でもあります。

なお全音版(1970年頃の版)は校訂者の名前がありませんので、全音の編集部版ということになりますが、下の楽譜を御覧ください。同じく木枯らしのエチュードの13小節から22小節までですが、

Etudeop251102

3段目のラミソ(シ♭)ラミのアルペジオは(512351)では弾けません。デタラメな運指です。下は私の運指ですが、(シ♭)は1(親指)で黒鍵を弾くことになり、なおかつ手首を返さなくてはなりません。黒鍵を親指で弾くことは特殊な運指ではありませんが、初めて遭遇すれば驚かれるでしょう。時代はやや下ってブラームスの「51の練習曲」は黒鍵を1で弾く音階から始まっています。パデレフスキー版の運指は、上の私のようにすべての音に運指は振っておりませんが、(シ♭)は1になっています。これはパデレフスキーでなくても、何通りか運指を試みて、音がスムーズにつながる運指を試行錯誤すれば当然思いつく運指だと思います。

以上ですが、ショパンのエチュードは、一見大変な運指になりそうな音型の連続なのですが、実際の運指を求めていきますと、難しい配列(指を動かす順番)ながら、満遍なく5本の指を使い、さらに一般的には動きづらいとされている4、5の運指の多用によって、エチュード目的も達成され、さらに、難しい運指から美しい音がこぼれてくるのですから、練習にも熱がはいろうというものです。

古い話で申し訳ないのですが、高校の数学の授業で、当時の数学の教諭はやたらと「美しい定理」とか「美しい公式」とかを連発していましたが、簡単明瞭かどうか、あるいは暗記しやすいかどうかが判断基準だった当時の私としては胡散臭く感じたものでした。その後、理系に進んだ私は例えばオイラーの公式 eのiθ乗=cosθ+isinθ なるものに遭遇した時、ようやくその美しさがわかるようになりましたが、ショパンのエチュードは音もさることながら美しい運指を持つ曲とも言えるでしょう。

ショパンのエチュードはもちろん運指が先にあるものでありませんが、結果として高度な運指法を用いらなければならない、ショパンの作曲ぶりを久しぶりに堪能しました。

余談ではありますが、この曲で出だしの半音階とイ短調の和音が浮かび上がってくる演奏はそう多くないことがわかるでしょう。単なる轟音の羅列に近い演奏はYouTubeには多く見られます。もう一度あなたのCD、レコードを聴き直してみることを是非お薦めします。

2月22日(火)追記

インターネットで調べてみますと、「木枯しのエチュード攻略法」を記載したHPやブログが複数あります。当然のことながら独自の運指を提案されています。弾きやすいというのは立派な理由ですが、弾きやすい理由、あるいはその運指を思い付いた理由などを紹介しなければならないのではと私は思います。

何故かを、説明いたします。運指というのは、弾く前からその指は何の音を弾くのかイメージができていなければなりません。運指で暗譜するということは、このことに他なりません。どの鍵盤を弾くかではありません。もちろんフレーズの切れ目、休止の後の開始音の鍵盤位置は意識することはありますが、曲の流れの中では、運指=音であります。ですから、木枯しの5小節のドラド ララミ  ラミラ ミミドの部分はイ短調の和音部分は2と1が担うということを指摘しなければなりません。運指の羅列524132と指摘するだけでは鍵盤と指の位置関係を示したに過ぎません。さらに上声部の半音階は543が担うということも併せて説明しなければなりません。言い換えれば各指の役割分担を事前に確認することにほかなりません。

大袈裟な言い方になりますが、運指の番号だけでは戦術で、音のと指の関わりは戦略であります。この戦略を考えることこそ、易しい運指を見つける基本で、運指の番号だけで曲を練習することは、私は時間の無駄と考えています。

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